飼い主はんと背後霊君

~これは飼い主はんと背後霊君の青春群像ドラマなのである~

早朝にベルが鳴る

飼い主はんの朝は早い。

毎朝4時に起き、4時50分に家を出て、10分後にはもう工場で働いているのである。

朝8時になるまでは誰も来ない。使いたい機械を順番待ちすることなく好きに使える

この3時間は、

実に至福の時なのである。

 

6時10分、その幸せな時間が打ち破られた。突然電話が鳴ったのである。

この時間に働くようになって数年経つが、電話が鳴ったのは初めてだ。

こんな時間に仕事の電話か?非常識にもほどがあるわと無視することにした。

どうせ作業現場の俺が電話をとっても、事務のことはさっぱり分からないので、

9時にもう一度おかけ直し下さいと伝える以外無いわけだし。

 

ベルは5回ぐらいで鳴り止んだ。

そのまま作業を続けたが、ふと心配になってきた。

飼い主はんは携帯電話を持ってないので、アパートにいない時の連絡先として工場の電話番号を実家に教えてあるのだが、

もしかして今のはその電話だったのではなかろうか。

今まで虫の知らせってのが当たった試しは無いのだが、妙に嫌な予感がする。

心臓の薬を手放せない父飼い主の身に何かが……。

そう考えると居ても立ってもいられなくなり、受話器をとって実家の番号を押した。

プルルル……プルルル……ガチャッ。

緊張が走る。も、もしもし……。

 

「ん……も、もしもし……母飼い主です……ん?……誰?

 ……飼い主?どしたんこんな朝早く……

 ってもう6時過ぎてるんやね……」

 

思いっ切り寝起きだった。

背後から父飼い主の「誰?何かあったん?」という寝ぼけ声も聞こえてくる。

俺の思い過ごしで安眠妨害してしまってすまんかった。

虫の知らせって本当に当たらない。